異性の前で格好つけたがる鳥のお話
こんにちは、こんばんは、はじめまして。M2のさいじょう(@mksaijo)です。日本酒と歌とアニメが好きです。
日本酒飲みたさに以下の企画に参加しました。
好きな女の子のために頑張りたくなっちゃうよね、女の子いるといつもより頑張っちゃうよね、わかるわかる。
私も周りに女の子がいると、いいところを見せようとちょっと頑張ってしまいます。誰でもそういう経験あると思うんですよ。
そんなわけで、今回紹介するのは以下の論文です。
da Cunha, F. C. R., Fontenelle, J. C. R., & Griesser, M. (2017). The presence of conspecific females influences male-mobbing behavior. Behavioral ecology and sociobiology, 71(3), 52.
3秒でわかる要約
オスは周囲にメスがいると、捕食者に対してより強くモビングを行う。
モビングはオスの質の正直なシグナルになっている可能性がある。
この論文のキーワード: モビング、性選択
Introduction
捕食されると動物は大体死にます。よって捕食圧はとても強い選択圧になります。多くの動物は捕食を避ける方向に進化してきました。巧妙な擬態や攻撃行動も、捕食圧によって進化してきました。
捕食を避けるための対捕食者行動としてモビングがあります。
モビングとは、声を出したり追いかけたりして捕食者を追い払う行動です。私が研究しているコアジサシは、モビングの際にフンをかけます*2。
モビングをするご利益はいくつかあります。
1) 捕食者の追い払いが出来る
攻撃行動をすることにより、捕食者を追い払い、捕食のリスクを減らすことが出来ます。
2) 相互協力のチャンス
お隣さんのモビングを手伝うと、次に自分の巣が狙われたときにお隣さんの協力が得やすくなります(Krama et al. 2008)。
3) 捕食者の学習機会
若い個体は、ほかの個体が何に攻撃しているのかを見て、捕食者の種類を社会的に学習します(Curio et al. 1978, Grisser and Suzuki 2017)。
その一方で、モビングをするコストも存在します。モビングをしているときに捕食されてしまうことがあるのです。つまりモビングは危険も伴う行動なのです。
さて、突然ですが、モテるオスとはどういうものでしょうか。
モテるオスは、何かを持っていたり、何かが出来たりします。
ニワシドリのオスは、メスの気を引くためにすごい巣(バワー)を作り (Madden 2001)、カタカケフウチョウのオスはすごいダンスを踊ります*3。また、クジャクは飾り羽の目の数が多い綺麗なオスほどモテます(Petrie et al. 1991)。
きれいな羽を維持したり、すごい巣を作ったり、踊ったりするのにはエネルギーコストがかかります。つまり、コストのかかる形質をもっているオスは健康状態がいいのです。よって、これらの形質はオスの質の正直なシグナルになっていると考えられます (Maynard-Smith and Harper 2003)。
燃費の悪い外車を維持するのにはコストがかかります。つまり、やたら燃費の悪いコテコテの外車はお金持ちであることの正直なシグナルなのです。
ではモビングの話に戻りましょう。
実はモビングには謎があります。モビングは、なぜかオスの方が積極的に強く行うのです。
もしかして…強いオスは…モテるのでは……!?
ということで、この研究はモビングは強いオスの正直なシグナルになっているかを明らかにするために行われました。
この研究で知りたいこと
1) モビングを捕食者の危険度によって変えているのか?
2) オスは同種のメスがいる前ではよりモビングをするのか?
Methods
調査地はブラジルの南のあたりです。
対象種は調査地にいた鳥のうち、性的二型*4のある鳥19種です。
調査方法は以下の図の通りです。
① 鳥のいる木を探します。
② 木から2mほど離れたところで捕食者模型を提示します。捕食者の鳴き声も流します。
③ モビングに集まってきた鳥の数、種類、モビングの強度(7段階)、性別を記録します。
この実験では2種類の捕食者模型を提示しています。
1) アカスズメフクロウ (Glaucidium brasilianum)
高リスク捕食者
主に鳥を食べる。大きさはオカメインコぐらい。ちいさくてかわいい。
2) アナホリフクロウ (Athene cunicularia)
低リスク捕食者
主に虫を食べる。大きさはキジバトぐらい。やたら足が長くてかわいい。
分析は系統種間比較という手法を用いています。
「系統種間比較って何やねん!!!」と思ったらこちらをご覧ください。
細かいことは省きますが、要するに、系統的に近い種が似ているのは当たり前なので、そこらへんうまく考慮して相関を出しましょう、という方法です。
Results
1) モビングを捕食者の危険度によって変えているのか?
→ 変えている!!
モビングの強さは、低リスク捕食者 > 高リスク捕食者です。
しかし、モビングに参加する個体数は、高リスク捕食者 > 低リスク捕食者です。
このことから、高リスクな捕食者に対するモビングは多数で遠巻きに攻撃するのに対し、低リスクな捕食者に対するモビングは少数でガツガツ攻撃するのです。
2) オスは同種のメスがいる前ではよりモビングをするのか?
→ する!!
灰色の〇はメスのモビングの強度、黒い▲はオスのモビングの強度です。
メスは周囲にいる同種メスの個体数が増加してもモビングの強度を変えないが、オスは周囲にいる同種メスの個体数が増加するとモビングの強度を変えることがわかります。
オスは周囲にメスが多くいると、あからさまにモビングの強度を上げます。うーん。
Discussion
今までモビングの利益としては、捕食回避、相互協力、社会的学習が挙げられてきました。そこに新たに性選択という役割が加わる可能性がでてきました!めでたい!!祝!!
しかし、よりモビングをするオスは本当にメスにモテるのかは、まだ分かっていません。モビングの強度とモテ度の関連を明らかにして、ようやく本当に性選択だと言えるでしょう。
Reference
- Cunha, F. C. R. D., Fontenelle, J. C. R., & Griesser, M. (2017a). The presence of conspecific females influences male-mobbing behavior. Behavioral ecology and sociobiology, 71(3), 52.
- Cunha, F. C. R. D., Fontenelle, J. C. R., & Griesser, M. (2017b). Predation risk drives the expression of mobbing across bird species. Behavioral Ecology, 28(6), 1517-1523.
- Curio, E., Ernst, U., & Vieth, W. (1978). Cultural transmission of enemy recognition: one function of mobbing. Science, 202(4370), 899-901.
- Griesser, M., & Suzuki, T. N. (2017). Naïve juveniles are more likely to become breeders after witnessing predator mobbing. The American Naturalist, 189(1), 58-66.
- Krams, I., Krama, T., Igaune, K., & Mänd, R. (2008). Experimental evidence of reciprocal altruism in the pied flycatcher. Behavioral Ecology and Sociobiology, 62(4), 599-605.
- Madden, J. (2001). Sex, bowers and brains. Proceedings of the Royal Society of London B: Biological Sciences, 268(1469), 833-838.
- Petrie, M., Tim, H., & Carolyn, S. (1991). Peahens prefer peacocks with elaborate trains. Animal Behaviour, 41(2), 323-331.
- Smith, J. M., & Harper, D. (2003). Animal signals. Oxford University Press.
感想
なんでいきなり捕食者のリスクの話が出てきたのか、いまいちわからなかったです。同じ分析を別の論文 (Cunha et al. 2017b) でもやってるし。これは謎~~~~。
動物の行動観察や行動生態の面白さは、意外で面白くて割とえげつない動物の世界をちょっと覗き見ることが出来ることだと思っています。この論文は、鳥もそういう中学生男子みたいなことやっちゃうんだ、中学のころを思い出すなあ、という面白さが好きです。いや、中学生男子だったことないけど。
このグループは、この論文のあとに、同じデータを使ってもう一本論文を書いています(Cunha et al. 2017b)。これはあくまで想像なのですが、Cunhaさんたちは、もしかしたら、2本目のほうをメインに書こうと思ってデータを取っていたのではと思うのです。いや、適当に言ってます。間違ってたらごめんなさい。その途中で面白そうな現象を発見して、分析してみたのかな、と勝手に想像しています。だって最初からモビング=性選択仮説の検証を狙うのはちょっとリスキーに思います。というか思いつきもしないよそんなこと。
フィールドワークは水物です。行動を見逃したらもう巻き戻せないし、記録漏れがあってもやり直せません。Cunhaさんたちは、おそらく丁寧に記録を取っていたのだと思います。だからこそいろいろな分析が出来て、どんどん面白いことが見つかったのでしょう。綺麗なデータを取るといろいろな分析が出来る、フィールドワーカーとして、記録の大事さを思い知らされました。
おわり。
全ての図に「日本酒」って透かし入れてサブリミナル効果狙おうかと思いましたがやめました。
日本酒なにとぞ。